持続可能な社会へ向けて
この記事を書いたのは:乙井 翔太
(1) 持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月に国連で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され,貧困・飢餓撲滅,健康促進,教育機会確保促進,ジェンダー平等,水と衛生の管理確保,クリーンエネルギー,完全雇用促進,技術革新,不平等是正,安全安心な街づくり,持続可能な生産消費,気候変動,海洋保全,森林保全,司法アクセス,グローバル協調などの17の課題解決目標を設定し,同目標達成に向けた民間の役割を重要視しています。
(2) ESG投資と国連責任投資原則(PRI)
これに先立つ2006年4月には国連で「ESG投資」を取り込んだ「国連責任投資原則(PRI)」が発足し,多数の機関投資家がメンバーとして署名しています。「ESG投資」とは,一般的な財務情報だけでなく,環境(Environment),社会(Social),ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資・融資で,投資家・金融機関が環境・社会・ガバナンス課題について投資先・融資先企業に働きかけ,広く社会的責任を全うし,ひいては投資家・金融機関の利益を確保するというものです。したがって,SDGsの目標を達成するための手段が,投資家・金融機関や民間企業の取り組むべきESGともいえます。
例えば,一例としては,「2013年には世界銀行グループが石炭関連への融資を原則禁止すると発表」,「2014年にはHSBCが森林破壊を伴いやすい山頂除去採掘(MTR)型の石炭資源開発への融資を全面禁止」,「機関投資家側でも2015年に」「石炭関連企業株式の全売却を決定」(夫馬賢治『ESG思考』講談社+α新書150頁),また,アメリカで発足した「電子業界行動規範(EICC)」(IBM,アップル,インテル,マイクロソフトなど,日本からはソニーなどが加入)は,「サプライヤーの排ガス・排水・廃棄物、二酸化炭素排出量、水消費量や、労働条件、労働時間、ダイバーシティ、差別、児童労働で統一基準を定め、サプライヤーを格付けし、改善を要望」(前掲著164頁),「2015年には、イギリスで現代奴隷法が制定され」「サプライチェーンが強制労働に関与していないかを企業がチェックするよう義務付け」「イギリスに現地法人がある日本企業も適用対象」(前掲著93頁)というものが挙げられます。つまり,SDGsやESGと相いれない場合,投融資の取りやめや取引停止につながるリスクがあるといえます。
(3)中小企業のビジネスチャンス
上記世界的趨勢について,現時点では,機関投資家,グローバル企業,上場企業などの大手企業・機関のみが意識し取り組んでいる事項かもしれません。
しかし,中小企業も遅かれ早かれ数年先には対応が必要となると予想されます。「大企業と取引しようとすると、従来からの品質、納期、価格に加え、環境、プライバシー、データセキュリティ、労働環境、人権対応等に関する基準を要求されることも今後増えていく。このときに面倒くさがらず、きちんと評価される存在になれれば、他の企業との差別化をしやくすなる」(前掲著193頁)と言われるように,上記世界的趨勢をむしろビジネスチャンスと捉えて,他社に一歩先んじて,社内のガバナンス再構築,ダイバーシティに配慮した役員構成,労働環境の見直しなど,他社と差別化を図る大きなチャンスです。
また,「2017年の世界国際フォーラム年次総会『ダボス会議』では、世界の経済活動の約60%を占める『食料と農業』『都市』『エネルギーと材料』『健康と福祉』の4分野で、SDGsで掲げられた各目標を追求すると、2030年までに年間12兆ドル(1320兆円)の経済成長機会があり、新たに最大3・8億人の雇用が創出されるというレポートが発表」(前掲著193頁)され,企業にとって持続可能な社会に向けたSDGsやESGに沿うことはまたとないビジネスチャンスと言えます。
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乙井 翔太